記憶というものはとても不思議なものです。有名なエビングハウスの実験から判明したことは、人間は記憶したことを20分後には4割以上忘れてしまうようにできているということです。そして、1日後には7割以上を忘れてしまうというから驚きです。  必死になって受験勉強をしている生徒がこれをみると、不安感を煽ってしまうだけになってしまうかもしれませんが、人間は何もしないまま記憶を放置したままにすると、その日のうちにほとんどの記憶を消滅してしまうことになります。しかし、ここで疑問が浮かび上がるはずです。なぜ人の脳は忘れるように作られているのか。その答えは脳が生存にかかわる重要な情報を優先しているためであり、それを記憶するのが何よりも重要だからと言われています。確かに生存に関わることと、学習知識を比較すれば、生存に関わる情報を優先しなければならないことは理解できるはずです。  では、記憶と密接と言われる海馬はどのようなものなのでしょうか。海馬は脳内においては、とても小さな器官であるものの、大脳に入った情報の取捨選択をするとても重要なパーツと言っても過言ではありません。つまり、記憶全体をつかさどる役割を持っているため、記憶とは切っても切り離せない存在なのです。 以前から脳細胞は毎日死ぬだけで、増加することはないと言われていましたが、それはあくまで脳の一部に限った話であって、海馬だけは細胞分裂を繰り返していることが判明しています。それと当時に海馬における細胞の数は増えることもわかっています。非常にわかりやすい例えでいうと、海馬はパソコンのパーツでいう「メモリ」の役割を果たしていることがわかります。必要に応じてデータの保存・削除を繰り返すことができるのです。通常、メモリは必要なデータがあれば、パソコン終了前にデータを保存する役割を果たしますが、海馬も同様で、データを大脳皮質に送信することで、長期記憶としてストックすることができるのです。  つまり、人間が「思い出す」という行為は、大脳皮質に長期記憶されたデータを呼び出す作業を意味しているのです。しかし、現状では海馬がどのようにして長期記憶を選択し、必要か不要かを分けているのかはわかっていないようです。ところが、近年の脳科学の研究によって、扁桃体(へんとうたい)が海馬と連携している可能性があることがわかっています。  扁桃体は海馬の隣に位置しており、人間の感情(好みや快不快など)を海馬に伝える器官と言われています。そのため、心に大きく影響を与えるような出来事は、いつまでも記憶に残るのだそうです。記憶というものは、情緒や感情の働きに影響されやすいことが言えると思います。これにより、徐々に脳の働きにおける説明ができるようになってきているのです。  つまり、扁桃体をどのように働かせるかが、記憶力につながってくるのだと思われます。脳は誰かに指示されて従う行為よりも、自発的に働くほうがはるかに能力を発揮すると言われています。脳を最大限に活用するためには、本当の心を把握することが大切なのかもしれません。そして、できるだけ脳(特に扁桃体に向けて)を喜ばせることが、脳を活性化させるポイントになるでしょう。  どうしたら記憶しやすくなるか、記憶を消さなくて済むか、これは扁桃体と海馬が鍵を握っているようです。脳への強い意識づけも重要ですが、それをどのようにして行うかが重要になってくるでしょう。学習においても、どれだけ心揺さぶられる覚え方をするかが大切でしょう。コツを掴むことができれば、記憶を自在にコントロールできるかもしれません。