従来から勉強は「食前に行うと良い」というのが当たり前のように言われてきました。しかし、それを否定するかのようなニュースが入ってきたのです。東京都医学総合研究所の動物実験によると、空腹状態になると記憶力が上がることや、その分子メカニズムが明らかになったそうです。  ハエを使った空腹実験とは?今回実施された実験の内容は、人間を対象に行ったものではありませんが、ちょっと興味深いものになっています。空腹状態と満腹状態のショウジョウバエの「長期記憶」による行動比較をするための実験だったのですが、双方のハエに特定の匂いを嗅がせて、ハエが嫌がる電気ショックを与え続けました。これはハエに「嫌悪学習」をさせるための行為です。すると翌日、その匂いと別の匂いを同時に漂わせたところ、空腹だったハエの7割が電気ショックと無関係の匂いのほうに向かったそうです。一方の満腹だったハエはどちらの匂いにも特別な反応を示さなかったそうです。 今回実施された嫌悪学習における実験は過去に何度も試されていましたが、どれも長期記憶が保存されるためには1回の学習では不十分という結果に留まっていました。どれも一定の間隔で何度も復習させることが必要であるという結論になっていたのです。しかし、今回の長期記憶の実験で、別の理由によって空腹状態だったハエが1回の学習で長期記憶を獲得するという結果が出ました。これによって、今回の研究グループがその結果に着目し、見事、「空腹の度合い」と長期記憶の関連性を証明することに成功したのです。 人間にも応用が期待できる技術今回の研究はここで終わりではなく、さらに成果を確かめるために研究を進めたそうです。すると空腹時に血糖値をコントロールするインスリンが低下すると、それによって脳内のタンパク質「CRTC」が活性化されることにつながり、記憶力が向上していたことが判明。このCRTCは、人間の体内にも存在しているため、人間も空腹時に記憶力が向上する可能性が高いのではないかと言われています。もちろん、人間も同じ状態になるかは断言できませんが、これは大変意義のある研究結果になったと思います。 ただし、空腹時とはいっても注意しなければなりません。今回の研究結果は、あくまで適度な空腹状態で記憶力アップが確認できたということです。つまり、過度の空腹により飢餓状態に陥ると逆効果になってしまうことも分かっています。極限の空腹状態にしても、記憶力は向上できないということですね。これは何においてもそうですが、やり過ぎは良くないということを伝えてくれているような気がします。 この実験結果はとても注目されていることはお伝えしましたが、今後空腹時における脳内の記憶保持の仕組みを再現できるような薬を生成することができた場合、記憶力を向上させることが簡単になり、記憶障害を改善するといったことも実現できるそうです。もちろん、あくまで可能性があるという状態ですが、もしそれが実現したら誰もが快適な学習をできるようになれるかもしれません。 また、老化による記憶力の低下やアルツハイマー病をはじめ、先天的な記憶障害を改善する方法もこの実験がきっかけとなり、解決するかもしれません。ご存知のように、これらの障害を治す方法はいまだに確立されていません。しかし、それらの分野の研究に加担することができたのではないでしょうか。 何度も言いますが、過度な空腹状態を作り出して勉強をするのはやめましょう。健康的に学習するなら、やはり食事はしたほうが賢明です。