プロ棋士の世界はとにかく思考力が試されますが、何よりも直感が大切になる場面が多くあります。これはプロ棋士だけが身につけられる、いわばスキルのように思っている人も多いかもしれませんが、最新の研究で素人でも訓練すれば、プロ棋士と同じように直観的な思考回路が持てるということが分かったそうです。  棋士と同じ直感的思考とは?この研究結果を発表したのは、理化学研究所(埼玉県和光市)の脳科学総合研究センターです。すでにアメリカの科学誌「ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス」に掲載されているため、多くの人がこの研究結果に注目しています。 そもそも、直観的な思考はなかなか解明することができないと共に、他者に伝えるのが難しいとされてきました。そのため、今回の研究結果は、その仕組みの解明が期待されており、世界から注目されています。 そもそもプロ棋士は、将棋の盤面を見た途端に直観が働くと言われており、同時に「次の一手」が浮かぶと言われていますが、実はこれに似たスキルが他の分野にも見られることが分かりました。それは医師が診断画像を見てどこに異常があるかを発見するときだそうです。また、システムエンジニアが膨大なデータの中から、故障の原因を探すのも、プロ棋士が持っている直感的志向と同じ能力だとされています。もっと調査をすれば、似たようなスキルを発揮している仕事などが分かるかもしれませんね。 直感的思考が働くメカニズム同センターでは、このプロ棋士の直観が働いている時に、脳のどこが活発に働くかを詳しく調査しました。すると、習慣行動の形成に関連があると言われている「尾状核」と呼ばれる部分が働くことが判明しました。そして、電気通信大の協力を得て、将棋をやったことがない20~22歳の男子学生20人に毎日約1時間、4か月にわたってコンピューターで詰め将棋に挑戦してもらうテストを実施しました。ここから訓練直後と、4か月後で脳の活動にどんな変化があるかを調査しました。 その結果、訓練直後には見られなかった、尾状核が活発に働いている様子が4か月後に確認できたそうです。これは盤面を見た後、頭に浮かんだ複数の「次の一手」から尾状核が働くことでふさわしい手を選んでいるとみられています。また、今回のテストによって、最初はほとんど解けなかった学生も訓練をするうちに正答率が上がったことも分かっています。やはり、継続して挑戦していくことが訓練につながっていくのかもしれません。 答えを選択する時間が短いほど正答率が高かったようで、これまでの研究でプロ棋士は時間に関係なく、尾状核が活動していることが明らかになったというわけです。ただし、このスキルの鍵を握っている尾状核が活発に活動するには長年の訓練が必要と言われています。そのため、誰もが簡単に持ち得るスキルではないことが分かっています。ただし、毎日の生活の中に将棋を取り入れることで、いつしか尾状核が活発になるかもしれません。そのため、プロ棋士だけでなく、素人であっても継続することで直感的思考が手に入れられる可能性があるわけです。 ちなみに研究に携わった同センターの田中啓治副センター長は「尾状核の訓練方法が確立すれば、医療やコンピューターエンジニアなど、(直観が働く)熟達者の効果的な育成方法が提案できる」とコメントしています。 もしかすると、この直感的思考があなたの学習に役立つかもしれません。気になった方は、無理のない程度に将棋を日常生活に取り入れてみると良いでしょう。とはいえ、将棋がわからない人は、まずはルールから覚えないといけませんね。