進学指導が重視される一方で、学力差が拡大

 

政府の教育再生実行会議は5月17日、「技術の進展に応じた教育の革新、新時代に対応した高等学校改革について」の第十一次提言を、首相官邸で開かれた第45回教育再生実行会議に提出しました。この中で最も注目されているのが高等学校「普通科」の改革です。

 

現在、高校への進学率は約99%。高校には普通科のほか、工業や農業などの専門学科、そして普通教育と専門教育から学べる総合学科がありますが、そのうち約7割の高校生が在籍しているのが普通科です。

 

今回の改革が打ち出された背景には、高校教育の画一化が挙げられます。とりわけ普通科は、大学進学のための受験教育が中心になる一方で、高校生の学習意欲の低下が顕在化し、学力差が大きく広がっています。それでは、今後のAIやIoTの時代に対応できる人材は育たないという危機感があります。

 

情報社会(Society 4.0)に続く「Society5.0」

 

それでは、今回の提言の「新時代に対応した高等学校改革」にスポットを当てて見ていきましょう。実現すれば戦後初の大改革になりますので押さえておく必要があります。

 

提言の中で頻繁に登場するのが、今日の情報社会(Society 4.0)に続く「Society 5.0」という概念です。政府が定義するSociety5.0とは、コンピュータテクノロジーによってサイバー空間とフィジカル空間が高度に融合され、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会のこと。提言の中では次のように述べています。

 

「今日の高等学校を取り巻く我が国の状況を見ると、人口減少を伴う少子高齢化や、就業構造の急速な変化、グローバル化、SDGsの推進等に加え、AI・IoTなどの技術革新や生命科学の急速な進展によるSociety5.0の到来など、大きな社会変化が予測されています。

そのスピードは速く、具体的にどのように変わっていくのかを予測することは困難ですが、人の働き方をはじめ、健康・医療分野などの我々の生活に身近な様々な分野においても大きな変化が起こっていくことが考えられます」

 

 

校長のリーダーシップで学校が目指す「類型」を示す

 

これを受け、Society5.0を生き抜く上で高等教育が養うべき力として、①文章や情報を正確に読み解き、対話する力、②科学的に思考・吟味し活用する力、③価値を見つけ生み出す感性と力、好奇心・探求力などを挙げています。

 

また、「ICT等の活用も含めた多様な学びの提供を実現するとともに、実社会での問題発見・解決にいかしていくために各教科での学習を結びつける教育を重視し、特定の教科を履修しないなどの極端な学習状況にならないよう、文理両方をバランスよく学ぶこと(略)が求められます」とも述べています。

 

さらに「各高等学校においてこうした取組を進める上では、校長の役割は特に大きいと考えられます」。そこで注目されるのが普通科の改革です。

 

「特に、現在、生徒の約7割が在籍する普通科について、生徒の意欲と関心を喚起し、能力を最大限引き出すことができるよう、校長のリーダーシップの下、一丸となって教育改革を推進することが重要である。その一つの方策として、国は、普通科の各学校が、教育理念に基づき選択可能な学習の方向性に基づいた類型の枠組みを示すこととする」

 

 

文系・理系に偏ることなく、バランスよく資質・能力を身に付ける

 

類型の例としては、次の4つを挙げています。

①予測不可能な社会を生き抜くため自らのキャリアをデザインする力の育成を重視するもの

②グローバルに活躍するリーダーや国内外の課題の解決に向け対応できるリーダーとしての素養の育成を重視するもの

③サイエンスやテクノロジーの分野等において飛躍知を発見するイノベーター等としての素養の育成を重視するもの

④地域課題の解決等を通じて体験と実践を伴った探究的な学びを重視するもの

 

このように、これからの普通科には、校長のリーダーシップの下で類型を打ち出し、それぞれ個性ある教育を行うことが求められるのです。提言では次のように結論づけています。

 

「Society5.0をたくましく生きるためには、文系・理系のどちらかに偏ることなく、バランスよく資質・能力を身に付けていくことが重要であり、例えば、教育理念に基づくことなく、大学入学者選抜等を過度に重視した文系・理系に分断されたコースの開設等は、生徒に真に必要な力を身に付けさせる観点からは、望ましい在り方とは言い難い。

各高等学校は、自らの教育理念及び教育課程編成・実施に関する方針等に基づき、文系・理系のバランスがとれた科目履修が行われるよう、教育課程を見直すことが重要である」

 

実施されれば高校普通科の大改革になるのは間違いありません。

 

出典:技術の進展に応じた教育の革新、新時代に対応した高等学校改革について(第十一次提言)

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/pdf/dai11_teigen_1.pdf