教育現場に革新をもたらすICT

近年、ITの進歩により多くの分野で盛んに活用されているのがICT(情報通信技術)です。教育現場も例外ではなく、ICTと教育を融合することで、教育現場に大きな革新をもたらすことが期待されています。

その中でも、特に重要な役割を果たすと目されているのが「教育ビッグデータ」です。

 

「教育ビッグデータ」とは?

教育ビッグデータを理解するには、まず「ビッグデータ」について正しい認識を持つ必要があります。

ビッグデータとは文字通り「大量のデータ」という意味です。しかし、単に大量なだけではなく、一般的なコンピュータやソフトウェアでは管理や解析が不可能なほど、膨大で複雑なデータ群を指します。

 

コンピュータの高速化やデータ解析技術の向上を背景に、各企業でビッグデータをビジネスに活用しようというトレンドが起き、その流れは教育現場にも波及。学校教育にもビッグデータを活用して、学習効果を高めようという取り組みが始まったのです。

 

教育分野でいう「ビッグデータ」とは、生徒の学習履歴や授業での発話回数、テストやドリルの解答状況など、生徒の学習状況に関するあらゆるデータになります。

データを蓄積し、それをもとに生徒一人ひとりの理解度に合わせた教育が行えるようにするというのが、教育ビッグデータの活用に期待される役割です。

 

 

「教育ビッグデータ」で何が変わるか?

これまでの教育は、教員の経験や主観に基づいて授業が行われていたため、教員のスキルによって教育レベルに差が生じる、理解が追いつかない生徒に対して適切なフォローが困難といった問題がありました。

 

ただしこれらの問題は、教員のスキル不足に原因があると一概に言い切ることはできません。生徒の学習状況を把握できるような仕組みやシステムが不足していることも大きく関係しています。

 

そこで注目されているのが「教育ビッグデータ」です。生徒一人ひとりの学習履歴や得意不得意を客観的なデータで把握・分析することにより、教員のスキルや経験知に左右されることなく、公平に最適かつ効果的な教育を受けることができるようになります。

 

文部科学省が2019年6月に発表した『新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)』によると、新時代に求められる教育のあり方として「誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学び」の実現を掲げており、そのために教育ビッグデータを活用することが謳われています。

 

 

生徒の意欲向上にも貢献

あらゆる学習データを収集すると聞くと息苦しく感じるかもしれませんが、教育ビッグデータを活用する目的は学力アップだけではありません。

 

生徒一人ひとりに寄り添った指導ができれば、つまずいても的確にフォローできるので、やる気を失ったり勉強嫌いになったりすることを防ぐ効果があります。

また学習の成果を可視化し、それを生徒にフィードバックすることで、生徒は自らの成長を実感しやすくなるため、学習意欲や自主性の向上にもつながります。

 

 

実現に向けたこれからの課題

ICTや教育ビッグデータを駆使した新時代の教育は、従来型の教育に革新をもたらすものとして期待される一方、その実現にはさまざまな課題があります。

 

まず、ビッグデータを収集するには、すべての生徒にパソコンやタブレットなどの端末を配布する必要がありますが、未だ十分に整備されていないのが現状です。

また、データを蓄積し解析するためのサーバーやシステムの用意、情報漏えいを防ぐためのセキュリティ上の問題をクリアするのに、多額の予算がかかります。

 

もちろん、教育ビッグデータを利用する現場の教員に対する教育やトレーニングも必要です。いくら緻密なデータを取得しても、それをうまく活用できなければ意味がありません。

 

欧米ではすでに、生徒に合わせた授業の設計や指導、学力の伸びの測定などに教育ビッグデータが活用されているようです。

日本は教育ビッグデータの分野で遅れを取っていますが、今後は様々な施策が行われることが期待されます。