小学校中学年が陥る「9歳の壁」

近年「9歳の壁」という言葉をよく耳にするようになりました。

この時期の子どもは幼児期を卒業し、世の中のことや物事を客観的に捉えられるようになり、知的な活動も増えてきます。

 

それに伴い学校の勉強につまずいたり、劣等感を抱いたり、集団による問題行動を引き起こすといった、さまざまな「壁」を経験する時期ともされています。

「9歳の壁」はどのようにして乗り越えていけばよいのでしょうか。

 

「9歳の壁」とは?

「9歳の壁」とは、9歳から10歳頃の子どもが経験する挫折感や劣等感を表した用語です。「10歳の壁」や「小4の壁」などと呼ばれることもあります。

 

文部科学省もこの時期の子どもの問題や課題について言及しており、周囲の大人や社会による支援が必要であると指摘しています。※1

 

「9歳の壁」は大きく2つの「壁」に分けられ、ひとつは高度化する授業内容についていけなくなる学習面の壁、もうひとつが劣等感や自信の喪失、不安や恐怖を感じやすくなるといった心理面の壁です。

 

それでは、これらの「壁」にぶつかる要因について見ていきましょう。

 

※1 文部科学省『3.子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題』

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/053/gaiyou/attach/1283165.htm

 

 

「学習面の壁」の要因

小学校低学年までは授業についていけたにもかかわらず、中学年を過ぎるとつまずく生徒が増えてきます。これは、目に見えるものや具体的なものを対象としていた授業内容が、学年が上がるにつれて抽象的な内容に移行していくことが要因のひとつです。

 

例えば算数の小数点や分数、理科の電気など、目に見ないものや具体的にイメージしづらいものが学習の対象になると、抽象的思考力が育っていない生徒は途端に理解できなくなってしまうのです。

 

 

「心理面の壁」の要因

9歳前後は身体の成長も著しく、体格や身体能力の個人差が目立つようになる時期です。

自分を客観視する力が身につき、自分と他人との差異が気になり始めるのもこの時期で、劣等感やコンプレックス、嫉妬といったネガティブな感情が生まれやすくなります。

 

また抽象的思考力が発達してくると、実際には起こっていないことや将来のこと、死に対する不安・恐怖といった感情が芽生え、心理的に不安定な状況に陥ることがあります。

 

 

いじめや「ギャングエイジ」の問題行動

学習面でも心理面でも壁を感じているため、苛立ちやストレス発散の手段として、いじめや仲間はずれなどのトラブルが起こりやすくなります。

 

またこの時期は「ギャングエイジ」とも呼ばれ、親や先生などの大人よりも友達との仲間意識を重視する傾向にあり、集団でいたずらや問題行動を起こすケースも見られます。

 

 

「9歳の壁」を乗り越えるには?

さまざまな問題に直面し、自己肯定感を喪失しやすい年代の子どもに対して、親はどのように関わっていけばよいのでしょうか。

 

学習面においては、一度つまずいてしまったらそれを放置せずに、理解できているところまで戻って学習し直すことが大切です。

 

抽象的思考を伸ばすために有効とされている読書も、積極的に取り入れましょう。

物語を読むと、情景や場面をイメージする力や、登場人物の相関関係を把握する力、他人を客観視する力、他人の立場で考える力など、さまざまな能力を自然に獲得できます。

 

心理面においては、ほめることで自己肯定感を高めてあげることが重要です。

ただでさえ他人と比較して劣等感を抱きやすいこの時期に、「あの子は勉強ができていいわね」「あの子はスポーツ万能でうらやましいわね」などといった、我が子と他の子を比較するような発言は控えましょう。

 

「最近がんばってるわね」「難しい問題が解けるようになってすごいわね」など、子どもの努力や成長に目を向けてポジティブな声がけをしてあげることで、子どもは安心し、前向きになることができます。

 

 

親の助けはバランスが大事

「9歳の壁」は、子どもが大人に成長するための大切な試練です。

子どもに寄り添い、温かい目で見守ることは子どもの健全な成長の助けとなりますが、親が介入しすぎると成長の妨げになる恐れがあります。

 

親子のコミュニケーションを増やし、子どもの状態を注意深く観察して、適切なサポートをしてあげるようにしましょう。