私立中学の人気が続く

近年、首都圏の私立中学の受験者数が増加の一途を辿っています。中学受験者数の増加傾向は2015年頃から始まっていて、2022年度も継続すると見られています。

 

少子化やコロナ禍という状況下にありながら、なぜ私立中学の人気が高まっているのでしょうか。

 

景気との相関性

首都圏の中学受験者数は、リーマンショックがあった2008年以降、しばらく減少傾向にありました。これは、景気後退による両親の収入減や先行きが見通せない不安から、子どもの教育費を抑えたいという理由によるものと考えられ、中学受験者数と景気には一定の相関性があるといえます。

 

しかし、2014年から2015年にかけて、減少していた受験者数が増加に転じ、2021年に至るまで右肩上がりに増加しています。

「アベノミクス」で景気が回復し始めたタイミングと合致しますが、一般家庭が好景気の恩恵を感じることができるほどのインパクトはなかったはずです。

 

近年の中学受験熱の高まりは、景気以外にも要因がありそうです。

 

 

私立大学入学定員厳格化

中学受験の人気が高まっている要因に挙げられるのは、2016年度入試から始まった「私立大学の入学定員厳格化」です。

2016年には、定員の基準を超えて入学者を増やした大学には補助金を交付しないことが、2017年には「地方大学振興法」という法律で、東京23区内の大学の定員数を10年間増加させてはならないと定められました。

 

「地方大学振興法」は、有名私立大学が多く存在する東京23区に集中していた学生の流入を抑制し、地方大学や地域経済を活性化させるために作られた法律です。

 

従来、私立大学では定員をオーバーして入学させるのが当たり前でした。しかし、定員の厳格化で受験生や保護者の間で不安が広がった結果、一人当たりの併願校が増え、実質倍率の上昇や浪人生の増加につながっています。

この影響から、先行き不透明な大学受験を避け、安全を求めて中学受験に走っていると考えられます。

 

 

コロナ禍で広がった公私格差

中学入試塾関係者の間では、コロナ禍による収入減の影響で、2021年度の受験者数は減少すると予想されていました。しかし、むしろコロナ禍が私立中学の人気を後押ししている状況になっています。

 

コロナ禍で露呈したのは、公立中学の対応の遅れです。公立校ではICT(情報通信技術)の導入が遅れ、オンライン授業が始まらないなどの問題が噴出し、保護者の間で不満や不信感が広がりました。

 

一方、多くの私立中学では早くからオンライン授業を開始しています。学習用端末の準備も迅速で、対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド授業など、公立校と私立校との教育格差が浮き彫りになり、私立中学人気に拍車をかけている状況です。

 

 

大学附属校に人気

次に、どのような学校に人気が集まっているのか見ていきましょう。

私立大学の入学定員厳格化による影響もあり、大学附属校は依然として人気が高いです。

 

早稲田大学や慶應大学だけでなく、MARCH(明治大学・青山学院大学・立教大学・中央大学・法政大学)や日本大学系列の学校も人気が集まっています。

これは、単純に大学までの進路が保証されているという理由だけでなく、社会の変化に対応した先進的な教育やICT教育の充実など、教育レベルの高さも評価されてのことです。

 

 

中堅校の競争が激化

近年は、難関校よりも中堅校に人気が集中する傾向にあります。その要因としては、偏差値中位の志願者が増加している点が挙げられます。

コロナ対応で後手に回った公立校に見切りをつけ、私立中学の受験に方向転換するなど、本来は公立中学へ進学させるつもりだった層が、新たに中学受験に参入しているのです。

 

また、上昇志向よりも安定志向が広がり、難関校の志願者数に変化は少ないものの、中堅校や下位校が軒並み志願者を増やしています。

 

 

偏差値以外の尺度も

一昔前は偏差値至上主義の様相が見られた中学受験ですが、近年はICT対応や国際教育など、教育内容で学校を選ぶ時代になっています。

 

公立校よりも自由な教育カリキュラムが組める私立校は、各学校が特色のある独自の教育プログラムを用意しています。志望校を選ぶ際は、偏差値にとらわれすぎることなく、多面的な視点で判断するようにしましょう。