日本を取り巻く現状

経済・産業面から見て、日本にはさまざまな課題が存在します。

少子高齢化により、日本の労働人口は確実に減少していくと予想されていて、経済競争力もかつての輝きを失いつつあるのが現状です。

GDP(国内総生産)は2010年に中国に追い抜かれ、現在はアメリカ・中国に次ぐ第3位ですが、10年以内に現在第5位のインドに抜かれるとの予測もあります。

 

また、世界第3位の経済大国であるにもかかわらず、日本の「一人当たりの労働生産性」はOECD加盟38ヶ国中28位と、先進国の中でも低い水準です。

国際経営開発研究所の試算では、「デジタル競争力」に関しても日本は28位となっており、IT人材の確保が急務となっています。

 

「教育未来創造会議」とは?

日本の現状を踏まえて、政府は「日本の社会と個人の未来は教育にある」という基本理念を掲げ、主に大学をターゲットとして教育改革を推進する会議体を立ち上げました。これが「教育未来創造会議」です。

内閣総理大臣を議長として、文部科学大臣や厚生労働大臣、経済産業大臣、その他有識者で構成されます。

 

2022年5月に行われた第3回教育未来創造会議では第1次提言案が取りまとめられました。そこでは「未来を支える人材を育む大学等の機能強化」「新たな時代に対応する学びの支援の充実」「学び直し(リカレント教育)を促進するための環境整備」という3つの柱が掲げられています。

 

 

大学等の機能強化

1つ目の柱が、大学等の機能強化です。デジタルや人工知能、グリーン(脱炭素化)、農業、観光といった成長分野における人材を育成するには、従来の大学の学部・学科を大胆に見直す必要があるとしたうえで、大学再編にかかる費用の支援や、大学設置にかかる規制緩和などが盛り込まれています。

一方で、教育の質や学生確保の見通しが十分でない大学に対しては、定員増に関する設置認可審査の厳格化も検討するとしています。

 

改革を推し進めることで、現在35%にとどまっている理系(自然科学分野)の学生の割合を、OECD諸国で最も高い水準である5割程度に引き上げるという数値目標が設定されました。

 

また、理系を専攻する男子学生の割合が28%なのに対し、女子学生は7%と低いです。女性の活躍推進という観点から、女子学生の確保に積極的に取り組む大学の支援強化も提言されています。

 

ほかにも、文理横断教育の推進や、企業や官公庁における大学院生の採用強化、産学官を挙げてのグローバル人材育成なども検討されています。

 

 

学びの支援の充実

大学進学希望者の割合は、世帯収入が少ないほど低いです。そのため政府は「高等教育の修学支援新制度」(高等教育無償化)を2020年4月から開始するなど、低所得層に対する支援を充実させてきました。

 

一方で、制度の対象に入らない中間所得層への支援が課題となっていたことから、今回の第1次提言では、各種支援の中間層への拡大も検討されています。

 

具体的には、中間所得層のうち多子世帯や理工系・農学系学部の学生への支援拡大です。現行の貸与型奨学金についても、ライフイベントに応じた柔軟な返還(出世払い)の仕組みの新設などが考えられています。

 

 

学び直し(リカレント教育)の環境整備

成人学習への参加率が高い国ほど、一人当たりの労働生産性は高くなることがわかっています。しかし、日本の企業は諸外国と比較して従業員に対する教育投資に消極的で、個人も学ばない傾向にあります。日本の労働生産性が低い理由のひとつといえるでしょう。

 

そこで今後は、企業・教育機関・地方公共団体が連携して、成人の学び直し(リカレント教育)の体制整備を進めていくことが計画されています。

 

 

教育が日本の未来を作る

教育未来創造会議はまだ始まったばかりです。盛り込まれた各施策を実現するには、予算や法改正に加えて、大学や企業、地方公共団体との調整など、多くの課題が残されています。

 

とはいえ、国の未来を作っていくのは人であり教育です。教育未来創造会議の今後に期待しつつ、動向を注視していきましょう。