「質の高い」幼児教育はその後の人生に影響する

幼児教育の意義はさまざまな研究や議論がなされており、研究者の間でも意見の分かれるテーマとなっています。

 

今回ご紹介する「ハイスコープカリキュラム」は、幼児期に「質の高い」教育を行うことが重要であるという立場をとっています。

つまり、闇雲に教育すれば良いわけではなく、最適化したカリキュラムに則って質の高い教育を行うことで、初めて幼児教育は効果を発揮するという考え方です。

 

では、質の高い幼児教育とはどのような教育なのでしょうか?

 

「ハイスコープカリキュラム」とは?

ハイスコープカリキュラムとは、アメリカの「ハイスコープ教育研究財団」が普及活動を行っている幼児教育カリキュラムです。OECD(経済協力開発機構)が発表した科学的に根拠がある「世界5大幼児教育カリキュラム」のひとつとして、世界的にも高い知名度を得ています。

 

1960年代にアメリカで行われた「ペリー幼児教育計画」というプロジェクトで用いられた幼児教育プログラムが、ハイスコープカリキュラムのベースになっています。この研究プロジェクトが目覚ましい成果を上げたことで注目を集めました。

 

 

50年以上にわたる追跡調査

ハイスコープ教育研究財団は、ペリー幼児教育計画で幼児教育プログラムを受けた児童に対し、50年以上にわたる追跡調査を実施しました。調査の結果として、プログラムを受けたグループは受けていないグループよりも、成人後の学歴や収入、持ち家率、犯罪率、健康状態などの項目で良い結果が出たとまとめています。

 

さらに、当プログラムを受けた本人だけでなく、その子どもの進学率や定職率、犯罪率などにも良い影響が出たことが明らかになったのです。

 

 

ハイスコープカリキュラムのポイント(1)

ハイスコープカリキュラムで最も重視されるのが「アクティブラーニング」です。

アクティブラーニングとは、生徒が受け身になるのではなく、自ら能動的に学ぶよう設計された学習法を指します。ハイスコープカリキュラムでは、人やモノ、イベントなどを直接体験することを重視しているのが特徴です。

 

文字や絵を使った学習にとどまらず、玩具を手で触ったり、粘土で形を作ったり、人と対話したりすることによって、学びを深めていきます。

 

 

ハイスコープカリキュラムのポイント(2)

2つ目のポイントは「Plan→Do→Review」(計画→実行→振り返り)のサイクルを重視することです。

ハイスコープカリキュラムでは、子どもが自ら遊びや作業の計画を立て、実行し、結果を振り返ることができるよう、大人は意図的に誘導します。

 

計画を立ててから遊ぶことにより、遊びが衝動的なものにならず、集中して物事に取り組む能力や自己規制力が養われます。

 

また、実行後に振り返ることで、反省点や新たな気付き、アイデアなどが生まれるのもハイスコープカリキュラムの特徴です。サイクルを繰り返していく中で、子どもの能力が強化されていきます。

 

 

ハイスコープカリキュラムのポイント(3)

3つ目のポイントは「材料」「実際に触って遊ぶ」「選択」「子どもの言葉と思考」「大人の援助」の5つの要素を大切にすることです。取り組みを実施する際は、5要素が含まれているかチェックします。

それぞれの要素の意味は、以下の通りです。

 

・材料:子どもの発達レベルに応じた玩具や素材

・実際に触って遊ぶ:材料を見るだけでなく手で触る

・選択:子ども自身に遊びや学びを選ばせる

・子どもの言葉と思考:子どもに遊びや学びの内容を言葉で表現させたり考えさせたりする

・大人の援助:大人が遊びや学びのベースを用意し、時に手助けする

 

 

大人と子どもの距離感が大事

ハイスコープカリキュラムは、子どもの自発的な学びを重視するものです。大人には意図的に子どもを良い方向へ誘導したり、遊びや学びの環境作りをしたり、問いかけや対話をしたり、手助けをしたりといった、絶妙な関わり方が求められます。

 

放任しすぎると、子どもの潜在能力を十分に伸ばすことはできません。とはいえ、押し付けすぎても積極性や柔軟な発想力が育たないでしょう。

ハイスコープカリキュラムの考え方は、子育てをするうえで重要な「親子の距離感」を教えてくれているのかもしれません。