『とりあえず大学に行く』ことのリスクを考える
「やりたいことが決まらないから、とりあえず大学に行く」
大学受験を目指す高校生の中には、「やりたいことが決まらないから、とりあえず大学に行く」という人が少なからずいます。
近年は小・中・高でもキャリア教育がさかんになり、将来の職業について考える機会も以前より増えました。大学入試でも、推薦・AO入試の枠が拡大し、受験生が自らの将来について考えた上で受験校を選ぶ傾向も強まっています。
しかし一方では、将来の夢や目標を見つけることができず、「親が勧めるから」「周囲がみんな大学に行くから」といった理由で大学に進む人も珍しくありません。残念ながら、日本には志望すればほとんど誰でも入れてしまうほど大学が多数あり、行こうとさえ思えば大学に行けてしまう状態です。
しかし、安易な気持ちで進学したものの、進学後に大きな壁に直面し、結果として中退してしまうという人も少なくありません。今回は、このような『とりあえず大学に行く』ことのリスクについて考えてみたいと思います。
その学費、無駄になるかもしれません
よくあるのは、入学後に学問に対する興味がわかず中退してしまうケースです。『入れる大学』を選んだものの、入学してみたら大学の勉強はちんぷんかんぷん、新しい環境で友達も少なく、いつしか大学から足が遠のき……という事例は、実際によく耳にします。
こうなると、せっかく納めた学費が無駄になりかねません。国公立大でも年間50万円以上、私立大だと年間100万円前後という高い学費を払って通うわけですから、中退してしまうリスクは避けたいものです。
中退率が高い学部はどこ?
中退率が高い学部のデータがあります。
朝日新聞・河合塾が共同で全国の大学を対象に行っている調査『ひらく 日本の大学』(http://www.asahi.com/edu/hiraku/article11.html)の2014年版では、卒業までの退学率は全体で8.1%となっています。学部別に見ると、最も中退率が高いのは薬学系で10.7%、以下、経済・経営・商学系10.2%、芸術・スポーツ科学系9.5%、工学系9.1%と続きます。
このうち薬学系は、薬剤師国家試験の勉強についていけない学生が多いと思われます。特に私立大の薬学系は合格基準偏差値が比較的低いところも多く、学力と国家試験とのギャップが大きい人が脱落してしまいやすくなっています。また、芸術・スポーツ科学系は、学費・レッスン代の高さ、あるいは途中で芸術・スポーツ以外の道を選ぶ人が多いといった事情が考えられます。
一方、経済・経営・商学系や工学系は就職に強いイメージがある学部ですが、同時に『とりあえず大学に行く』選択をした人が選びがちな学部でもあります。どちらの系統も私立大に多く、入れる大学を見つけやすい一方、どんな学問か深く考えることなく安易に選ぶ学生が多いのもまた事実です。そのため、『とりあえず大学に行こう→入りやすくて、なんとなく就職に強そうな大学にしよう→入学後、大学の勉強に関心が持てない→やる気がなくなり大学をサボる→中退』という結果に陥りやすいと考えられます。
意義のある大学生活にするために
多くの家庭にとって、大学の学費は決して安いものではありません。『とりあえず行く』あるいは『とりあえず行かせる』という形にならないよう、事前に親子間でよく話し合い、何のために大学に行くのか親子で意思統一した上で進学することが重要でしょう。また、大学を選ぶ際にも、偏差値や就職先だけを見るのではなく、学生に対する学習支援・就職支援などのバックアップ体制も確認しましょう。中退を防ぎ、大学生活を意義のあるものにするためにも、学生ひとりひとりに気を配り、卒業まで後押ししてくれる大学を選びたいものです。