国立教育政策研究所が「アクティブ・ラーニングの視点に立った学習空間に関する調査研究」で教室・施設面での課題を指摘
2020年度から順次始まる新学習指導要領に必要な「学習空間」を調査
文部科学省が所管する国立教育政策研究所の文教施設研究センターは、このほど「アクティブ・ラーニングの視点に立った学習空間に関する調査研究」報告書をまとめ、研究所のホームページで公開しました。
2020年度から順次導入される新学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善が求められています。これを踏まえ、学校の学習空間(施設や設備、学校用家具など)の使用状況や課題を明らかにすることを目的に実施されたものです。
この調査は、二段階で行われました。まず授業改善に積極的に取り組んでいる学校をアンケートで調査したうえで、学習空間の活用状況や教員による評価を分析するとともに、実際の空間の活用状況と評価の関係性などについての仮説を立て検証しました。
結果は、今後、新学習指導要領に沿ってアクティブ・ラーニングを進めていくうえで、学校の教室や施設面での課題が少なくないことを示唆するものです。以下、調査結果からポイントとなる部分を見ていきましょう。
持ち物が収納棚に収まっていない小中学生。音が聞こえにくいオープン教室
学習空間の利用状況では、各教科で授業改善への取り組みが進められている状況がうかがわれ、グループ活動など授業改善への取り組みが、 普通教室を中心として各教科で行われていました。また、教科による違いでは、国語で図書室やコンピュータ室を使用するケースが多いなど、教科による使用教室の違いが見られました。
ICT機器の使用状況では、電子黒板やタブレットは、保有台数が増えると使用頻度が増える傾向が強く見られました。持ち物の収納状況では、持ち物が収納棚に収まっている学校は、小学校で24.4%、中学校で44.2%と半数に満たない状況でした。
一方、教員による学習空間の評価では、学級規模が大きかったり、グループ学習を実施したり、持ち物を収納できないと、小中学校共通で教室の評価は低下しました。また、担当学年が与える影響では、小学校では6年生担当の教員の教室の評価は、1年生担当の教員の評価よりも低い結果でした。
オープンな部屋(間仕切壁、扉で閉じられていないもの)の場合、一定の広さを超えると評価が低下する傾向が見られました。広いオープンな空間の場合は、特に聞きやすさ、音響への配慮が必要なことを示唆していました。
教室の面積拡大や収納スペースの確保、音響への配慮も必要
これに対して仮説に基づいた空間の活用状況と評価の関係性では、概ね仮説を支持する結果になっています。例えば、より面積が大きい学校では、より多様な教育方法・教育形態が実践され、評価も高いことが確認されました。ただし、今後の施設計画では、面積により使える授業に違いが生じる可能性があることや、教室間の移動のしやすさを考慮した平面計画が必要としています。
また、大きな学級規模、グループ学習、持ち物を収納できない場合は、従来の普通教室サイズ(64㎡程度)では狭く、教員の評価は低下することも確認されました。影響の大きさについての試算の結果、グループ学習の影響は学級規模で4~5名の増加に相当し、収納の影響は教室面積で約20㎡の違いに相当。教室を一回り大きくしたり、余裕教室を活用して教室内の収納棚を外に移設したりすることも必要としています。
学習空間の活用や教員の評価で教科により違いがあることについては今後の施設計画等において、教科により使用する教室の種類が異なることや、普通教室の「部屋の広さ」が課題となりやすい教科があることを考慮して計画することが重要としています。
より広い多目的スペースでは、教員からの評価が高いことも分かりました。そこで、今後の施設計画では、小学校では特に音響計画の十分な検討を行いながら授業で使いやすいアクセスの良い位置に、現状より広い多目的スペースを整備することが有効としています。