小学校で導入される「教科担任制」の動向と課題
ようやく本格導入に向け前進
以前から議論が進められており、必要性が叫ばれていた小学校の「教科担任制」。文部科学省は、2022年度より小学校高学年を対象に教科担任制を導入する方針を明らかにしました。
とはいえ、2022年度からすべての小学校で一気に教科担任制に切り替わるわけではありません。導入に向けて、クリアすべき課題や問題点があるのも事実です。
「教科担任制」とは?
多くの小学校で、一人の担任の先生が国語・算数・理科・社会・体育など複数の教科を教える「学級担任制」を採用しています。
一方、中学校や高校のように、教科ごとに専任の先生が教える形態が教科担任制です。一部の小学校では、既に特定の教科で教科担任制を採用しています。
文部科学省の検討会議が取りまとめた報告によると、小学校高学年で教科担任制の導入を予定している教科は、外国語・算数・理科・体育です。※1
※1出典:文部科学省「義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方について(報告)」より
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/159/mext_00904.html
「教科担任制」導入の背景
小学校で伝統的に学級担任制が採用されてきた理由は、学級担任制にも利点があるからです。
具体的なメリットとしては、学級担任の先生がクラスの生徒と過ごす時間を長く取れる、生徒一人ひとりの性格や個性、勉強の進み具合などをきめ細かく把握できるなどが挙げられます。
一人の先生が複数の教科を担任することで、教科をまたいだ横断的なカリキュラムを組める点も、学級担任制ならではのメリットです。
しかし、学級担任制には、特定の教科に対する専門知識や指導法の熟練度が、教科担任制よりも劣るという問題点があります。生徒の学習内容の理解度や定着度を優先するのであれば、その分野に精通した教科担任による指導が望ましいのは当然です。
また、教科担任制導入の背景には、急速に進むグローバル化やハイテク化といった社会情勢の変化もあります。教育を改革し次世代を担う子どもを育てなければ、他国との競争に勝てないという危機感や社会的要請が、教科担任制を後押ししているのです。
「教科担任制」で期待される効果
教科担任制の導入で期待される効果としては、4つ考えられます。
1つ目は「教員の指導力と生徒の学力の向上」です。
教科指導に対して専門性を有した教員がレベルの高い指導を行うことで、授業の質が向上します。生徒の学習内容の理解度や定着度も高まり、より深い学びが期待できます。
2つ目は「教員の働き方改革」につながる点です。
教員の持ちコマ数が軽減し、授業準備にかかる労力が効率化されるため、負担が軽減します。軽減されたリソースを、生徒達とのコミュニケーションの時間に充てることもできるでしょう。
3つ目は「多面的な指導と児童理解」が可能になる点です。
複数の教員が指導にあたれば、一人ひとりの生徒について教員間で共通の理解を持つことができます。生徒の個性を多面的にとらえたり、多様な個性を引き出したりすることにつながります。
4つ目は「中1ギャップの解消」です。
中学生に上がると、急に教科担任制へと切り替わったり、学習内容が専門的になったりという変化を経験します。この変化に戸惑い、悩みを抱えるのが「中1ギャップ」です。
小学校高学年から段階的に教科担任制に触れることで、中1ギャップを回避する効果が期待できます。
「教科担任制」の問題点と課題
さまざまな効果が期待されている教科担任性ですが、問題点や課題も指摘されています。
まず挙げられるのが、教員不足の問題です。近年は教員採用試験の倍率が低下しています。人材確保と人材育成は、教科担任制の導入において優先度の高い課題です。
問題解決のために、中学校の教員を小学校の教科担任へ回すことも検討されています。しかし、現在の教員免許制度だと、中学校の教員免許だけで小学校の教員になることは原則できません。免許制度の見直しも含めて、改革を行う必要がありそうです。
また、小規模の小学校では導入が難しいとの声もあります。1学年1学級という小学校の場合、異なる学年の教科を分担することになり、教員の負担が増すことが予想されます。
これらの問題点や課題をどのようにクリアしていくか、今後の動向に注目していきましょう。