【SEL】欧米で話題の「ソーシャル・エモーショナル・ラーニング」とは?
アメリカの教育トレンド
近年、アメリカの教育現場でトレンドとなっている「ソーシャル・エモーショナル・ラーニング」(SEL)。日本においてもその研究が進められており、業界内で話題を呼んでいます。
SEL先進国であるアメリカでは、SEL教育プログラムの実施により、いじめや校内暴力、不登校といった学校内の問題の減少、学習効果の向上など、目を見張る実績を残しています。
SELとはどんな教育なのか、そしてどのような効果があるのでしょうか。
「ソーシャル・エモーショナル・ラーニング」(SEL)とは?
SEL(Social Emotional Learning)は日本語で「社会的・情動的学習」と訳されます。具体的には、自分と他人の感情を理解し、周囲の人たちとうまく関係を築き、社会において適切な行動を取れるようになるための教育です。
もう少し噛み砕くと、「対人関係スキル」を習得する教育ということになります。
近年その重要性が指摘されている、「非認知能力」(テストの点数で測ることができない能力)を向上させる教育と言い換えてもいいでしょう。
SEL誕生の背景
SELの誕生は1960年代、校内暴力やいじめ、不登校などの問題を抱えていたアメリカの学校で、生徒間の関係を健全化し、学校内の環境向上に主眼を置いた教育プログラムを実施したのがきっかけです。このプログラムは大成功を収め、生徒の問題行動が減少しただけでなく、学力も向上したそうです。
従来は、生徒の「社会性や感情の健全さ」と「学力」との相関関係は、あまり注目されていませんでした。しかし、SELの成功によって、感情面と学力面は切り離せない両輪の関係だと証明されたのです。
SELの5つの柱
SELの普及に向けて活動を行っているアメリカのNPO団体「CASEL」は、SELによって育む能力には次の5つがあるとしています。
(1)自己への気付き(self-awareness)
自分の感情の動きに気付き、自分の強みや弱みを認識する能力
(2)他者への気付き(social awareness)
多様な背景や文化を持つ他人の考え方を理解し、共感する能力
(3)自己のコントロール(self-management)
怒りや悲しみなどの感情をコントロールし、自分の目標に向かって行動する能力
(4)対人関係(relationship skills)
他人とうまくコミュニケーションを取り、協力して問題解決ができる能力
(5)責任ある意思決定(responsible decision-making)
社会規範や倫理に即した建設的な行動を選択する能力
これら5つの能力をバランス良く育成していくのが、SELの教育プログラムです。
道徳との相違点
ここまでSELについてご紹介してきましたが、「日本にも昔から道徳の授業があるのでは?」と思われた方も少なくないでしょう。
学習指導要領にも「道徳科の目標は、道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を多面的・多角的に考え、自己の生き方についての考えを深める学習を通して、道徳的な判断力、心情、実践意欲及び態度を育てることである」と記載されています。つまり、目指すゴールは道徳もSELもほぼ同じです。※1
しかし日本では、道徳は他の教科に比べて軽視されがちで、授業の進め方やプログラムに関しても体系化されておらず、教員の裁量に任されている感があります。
※1 文部科学省:「【特別の教科 道徳編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解説」より引用
SELの具体例
従来の道徳とは異なり、SELは理論や実証に基づいた教材や体系化されたプログラムを使用する、非認知能力を高めるための具体的手法となっています。
例えば、自己への気付き(self-awareness)を目的としたプログラムでは、自分の感情を特定し、それを言語化したり、分類したりトレーニングが行われます。
さまざまな感情や行動を信号機の色(赤・黄・青)に分類し、自分や他人が現在どの色の感情なのかを認識したり、グループディスカッションしたりして理解を深めるというプログラムが一例です。
また、自己のコントロール(self-management)のプログラムでは、瞑想やヨガで用いられる呼吸法が取り入れられているようです。
自分の中に不安や苛立ちの感情があると認識した生徒に呼吸法を実践させ、しだいに気分が落ち着き冷静さを取り戻すという経験をさせます。
これを何度か繰り返すと、生徒は自ら気分を落ち着かせるために呼吸法を行うようになり、自己コントロールの術を学んでいきます。
このように、SELは非常に具体的かつ実践的なプログラムです。今後、日本でも普及することが期待されます。